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米澤明憲


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研究室と米澤の紹介

米澤は、並列オブジェクトに関する研究を、長年にわたり世界の先頭に立って行ってきた。最初の着想を得たのは、 1970年代中頃、マサチューセッツ工科大学(MIT)の博士課程に在学中まで遡る。当時はコンピュータがまだ高価で、 一台のコンピュータを多くの利用者が共用せざるをえない時代であったにも係わらず、無尽蔵と言えるくらいに多数 コンピュータを同時・並列的に利用するソフトウェアの構成はいかにあるべきかを考え、その構成原理を世界に先駆けて提唱したた。 MITでPh.Dを取得した後、東京工業大学を経て、1989年には東京大学理学部情報科学科教授に就任し、 今日にいたるまで、並列オブジェクトの基礎理論、プログラミング言語の設計とその処理系の開発、および応用に関する 研究を続けてきた。今日では、米澤が提唱したた「並列オブジェクト」の概念が、大規模で安定した情報システムの構築 と大規模な科学技術計算のために活用されるようになってきている。例をあげると、リンデンラボ社が運営する オンライン仮想空間のセカンドライフ、マイクロメッセージ(つぶやき)によるコミュニケーションサービスで利用者が 一億人を超えるツイッター(Twitter)などで並列オブジェクトの概念が採用されており、また、米国の二大スーパーコンピュータ センターで行われる計算の15%から20%が並列オブジェクト言語システムCharm++によるものになっている。

並列オブジェクトとは

計算機で実行される大規模ソフトウェアは、システムプログラムと応用(アプリ)プログラムに大別される。LinuxやWindowsのようなOSがシステムプログラムの代表例であり、粒子系シミュレーションソフトや有限要素法の計算ソフトが応用プログラムの例ある。「並列オブジェクト」の概念は、並列計算機やスパコンの上で動かされる大規模な応用プログラムの設計・開発に威力を発揮する。さらに、離散事象の自然なモデル化とその並列計算機上でのシミュレーションを容易にする概念でもある。  「並列オブジェクト」は、大規模ソフトウェア(プログラム)を構築するためのモジュール(部品、パーツ)の一つある。一般にソフトェアのモジュールは、組み合わせ易く、入れ替えが容易で、再利用されやすく、かつ実行効率に問題のない形式でなければならない。「並列オブジェクト」の着想は、大規模な並列・分散型計算機が遠い将来の夢と思われていた、1970年代半ばにおける米澤のMIT博士課程在学時の研究に遡ることができ、その後、日・米・欧で理論・応用等の様々な角度から研究が進められてきた。  「並列オブジェクト」は、ソフトウェア開発で最も普通に行われている、オブジェクト指向プログラミングにおける、「オブジェクト」の概念を一般化したもので、一つの「オブジェクト」に1個のCPUを閉じこめたものと考えてよい。多数の並列オブジェクトがあればその数だけのCPUが使われ、オブジェクト間の情報のやり取りは、オブジェクト間のメッセージ送信で行われるものである。 今では「並列オブジェクト」をもとに、超並列型のスパコン上で稼働する分子動力学の応用プログラム、ネット上の新しいメディアになりつつあるTwitterシステム、Linden Labのセカンドライフシステムなどの大規模先進的ソフトウェアシステムの構築・実装が行われるようになった。現在、計算機はマルチコア、メニコアの時代に入りつつあり、CPUを何十万・何百万個内蔵した計算機を容易の使いこなすためのソフトウェアシステムが求められている。その時、この「並列オブジェクト」の重要性がされに増すと予想されている。

並列オブジェクトを用いた大規模システムの例(スライド)(論文)

米澤研究室の研究

情報理工学系研究科コンピュータ科学専攻の米澤研究室では並列・分散プログラミング言語の実践>および基礎 の両面をテーマに研究を行っている。同時に、悪意あるユーザの侵入やコンピュータウイルスに犯されにくく、 安全性が高く、かつ高性能が維持できる基盤的ソフトウエア(コンパイラ、OSなど)の 構築に関する研究/開発を理論および実践の両面から幅広く行っている。

次により具体的に我々の研究について紹介する。

これまでは、ほとんどのソフトウェアは1台の計算機上で動作することを前提に つくらている。そのために、プログラミング言語も、研究段階にあるものを除くと 同様の前提で設計、実装されているものがほとんどである。これは、 今まで並列計算機(多数のCPUを搭載した計算機)を利用できる機会が少なかったためである。しかし、今日の計算機環境はすでに、 多数のコンピュータが高速なネットワークで結合された並列計算機環境、インターネットを介して接続されたWWWなどを提供する広域分散環境など、複数のCPUを同時に 利用可能な機会はいたるところにある。さらに、既にデスクトップパソコンやノートパソコンにも複数のCPUが搭載されるに至っている。

我々の研究室では、並列・分散計算環境が今日のような成熟した形になる以前 から、主に大規模な並列計算機(数百から千以上のCPUを持つ計算機)や 大規模な分散環境(主にインターネット)を動作環境とした、プログラミング言語の 実践および基礎理論に関する研究を行ってきている。並列計算機用の プログラミング言語として、米澤等が1970年代の半ばに提唱した 「並列オブジェクト」に基づいたプログラミング言語の研究を行っている。 (並列オブジェクトは通常のC++やJava言語の基礎にあるオブジェクト概念を 発展させたものにほぼ対応している。)この研究では、解決しようとする問題に内在 する並列性を、簡単に抽出できるような言語の設計を行い、かつそれらを並列計算機上 で高速に動作させることが主な課題である。そしてそれらの言語を、科学技術計算 (多体シミュレーション)、組み合わせ最適化問題(RNA2次構造予測)、 自然言語処理(文脈自由文法の構文解析)、どの多くの応用分野に適用している。 さらに最近では、100万規模のユーザが参加する、大規模なオンライン仮想世界Second Life (Linden社)に登場する200万余の「もの」や「登場物」はそれぞれ並列オブジェクトで実現されている。 さらに、Twitterシステムの大量の「つぶやき」の転送処理は並列オブジェクトの活用により可能となった。 また、イリノイ大学で開発された、ナノスケールの分子動力学シミュレーションシステムNAMDは、 同じくイリノイ大学のKale教授のグループで1990年代半ばから開発がはじめられた並列オブジェクト プログラミング言語システムCHarm++を用いて実現されている

2000年以降からは、悪意あるユーザの侵入やコンピュータウイルスに犯されにくく、 安全性、セキュリティが高く、かつ高性能が維持できる 基盤的ソフトウエア(コンパイラ、OSなど)の 研究を行っている。そのためにの手法として、理論的な裏付け(型理論など)をもつ ソースプログラムの解析技術やモデル検査法、また機械語レベルでの型付けなどの アプローチをとっている。 一方、ソフトウエアセキュリティに関する国内の 大学の共同研究について音頭をとった。実際、6つの大学の9つの研究グループを形成し、 平成12年9月から平成16年3月まで、文部科学省科学研究費補助金特定研究 「社会基盤としてのセキュアコンピューティングの 実現方式の研究」を実施し、数多くの研究成果を世にだし、平成16年2月発行の 文部科学省白書では、過去に科学研究費補助金で実施された”最も社会的貢献の高い”5つの研究 (野依先生、白川先生、末松先生の研究を含む)のうちの一つにあげられた。

さらにモーバイルオブジェクト計算を世界に先駆けて研究テーマの 一つとしている。これまでのオブジェクト指向計算では、オブジェクトは、 メッセージが到着することによって活性化し、メッセージで指定された仕事を する(機能を持つ)ソフトウェアのモジュールであると考えられていた。 モーバイルオブジェクトはそのような従来のオブジェクトの概念を発展させた、 自分自身で自立的にネットワークの中を動き回ることができるオブジェクトである。 自分で地球規模の多数のホームページを実際に移動することによって、有効な情報を 収集してくるインターネットのサーチロボットなどはその簡単な応用例である。 具体的には、そのような計算・情報処理を記述する、プログラミング言語の設計し、 処理系、実行時系を開発した。この処理系の実現手法は、Linden社のSecond Lifeの 新しい実現でも採用されている。

米澤は1947年6月生まれ、1970年東京大学工学部計数工学科卒、1977年マサチューセッツ工科大学(MIT)計算機科学科博士課程修了(Ph.D.  in Computer Science),MIT計算機科学研究所および人工知能研究所において 並列・分散計算モデルの研究に従事し、「並列オブジェクト」概念のパイオニアの 一人として知られている。帰国後、東工大を経て、1988年に 本学コンピュータ科学専攻教授に着任した。「並列オブジェクト」の先駆的研究により により、1999年に米国計算機学会のフェロー(ACM Fellow)の称号を得る。 日本ソフトウエア科学会理事長、ドイツ国立情報科学技術研究所(GMD)科学顧問、政府情報科学技術委員会委員、 通産省リアルワールドコンピューティング(RWC)プロジェクト評価推進委員などを 歴任。2001年3月から2004年3月まで内閣府総合規制改革会議委員、同教育分野主査。 現在、情報システム研究機構 監事、(独)産業技術総合研究所 情報セキュリティ研究センター (東京秋葉原在)副センター長を兼務している。さらに、2005年4月より2005年3月まで 東京都杉並区立杉森中学校 地域学校運営協議会会長。2006年4月より東京大学情報基盤センター長。エンジンゼロワン文化戦略会議幹事及び教育委員会委員。 2006年より、米国マイクロソフト社のTCAAB (Trust-worthy Computing Academic Advisory Board)の メンバーをしている。 さらに、オブジェクト技術の研究に対して、世界で最も権威ある ダール-ニゴール賞をアジアではじめて受賞し、2008年7月はじめにキプロスで開催されたヨーロッパオブジェクト指向会議で 受賞講演を行なった。

平成21年秋の紫綬褒賞受章

ダール二ゴール賞受賞日経新聞記事2008.7

受賞講演スライドへのリンク

受賞記念講演(日本語版)

同賞受賞のニュースへのリンク

船井業績賞受賞2009.9 並列オブジェクト-Twitter-新型ウイルス抗体解析-受賞記念講演-

米澤の著書には以下のようなものがある。

  • 算法表現論、1982年 岩波書店、282頁.
  • Object-Oriented Concurrent Programming, MIT Press, 1987,282pages.
  • ABCL: an Object-Oriented Concurrent System, MIT Press 1990, 329pages.
  • モデルと表現、1992年 岩波書店、315頁.
  • 研究プロジェクト

    「高安全性を持つコードを生成するC言語コンパイラ」

    「型付き機械語に基づくLinux互換な高安全OSの研究」

    「安全な社会基盤としてのセキュアコンピューティングの実現方式の研究」

    私のソフトウエア研究のあゆみ

    寄稿:コンピュータソフトウェア, 21(4), 2004

    インタビュー取材

    情報理工学研究科ホームページ フォーカス取材 2007年3月 へのリンク

    アウトリーチ活動

    出張講義1 歓迎風景

    東京都狛江第4中学校3年生向け「携帯電話で出張先の人と話せるのはなぜ?」2007年3月9日

    出張講義2 授業風景(山形新聞2007年10月26日朝刊)

    山形県長井南中学校3年生向け「FAXのしくみと暗号の話」2007年10月25日

    出張講義3 小樽市立潮見台中学校3年生向け 2010年2月5日

    自慢話

    「田淵幸一との試合」ーー 東京工業大学準硬式野球部20周年記念文集より、2003年11月

    講演/論文

    「私のモバイルオブジェクト研究」 Early Concurrent/Mobile Objects, ECOOP'06 Nantes, July 2006, LNCS No. 4067, pp.98-104 (pdf)

    情報処理学会大会、懐メロセッション「私の修士論文ー惜しかった」, 2005年3月 (ppt)

    「私のソフトウエア研究」,コンピュータソウトウエア 第21巻 4号 2004年 (pdf)

    公開シンポジウム「安全な社会基盤を支えるソフトウエア技術」, 2001年9月 (ppt),「特定研究領域 安全なソフトウエア基盤システムの概観」

    「並列オブジェクト」 2000年1月、Boston(ppt) (pdf)

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    E-mail: inverse of awazenoy @is.s.u-tokyo.ac.jp
    AY May 2007