belleville rendezvous (les triplettes de belleville)

2005/jan/21, les triplettes de belleville という映画を観た。フランス、 ベルギー、カナダ合作のアニメ。日本ではイギリスでの題名 belleville rendezvous から、「ベルヴィル・ランデブー」という名前で現在新宿で公開されている。
実はこの映画は僕がパリにいる時に向こうで公開されていた。街中に張り 出された不思議な感じのポスターがとっても気になっていたのだが、なんだかんだと日を過ごしているうちに見過ごしてしまっていたのだった。
ベルヴィルというと、パリ市内の北にある地区の名前だ。直訳すると「美しい 街」。パリということもあって、何か上品できれいな場所を連想させるが、、、 実際にはそうではない。花のパリという変な幻想はベルヴィルでは木端微塵に 吹きとばされてしまうだろう。ベルヴィルは中国人の町だ。メトロ(地下鉄)の 駅から地上に出ると「美麗都酒家」「広東正宗点心店」と書かれた看板が目に 付く。と言っても長崎、横浜や神戸のような中華街でもない。全く観光とは 縁のない雑然とした所だ。雨が 降ったりするとブレードランナーのロサンゼルス中華街のようないかがわしさがぐっと 臭ってくる。
実はベルヴィルは中国人がやってくる前はアラブ人街であったのだが、後発の 中国人たちに中央部を占拠されてしまった。アラブ系の人々はその周辺で 追いやられたように商売をしている。この辺りでは、アラブのオッサンが 昼間から何もせずに通りのベンチで数人づつ固まってボーッとしているのをよく 見る。一方、中国人はみんな忙しそうである。僕が通っていた安い点心の 店では、福建かどっかから来たばかりの若い女の子が店員をやっていて、 始めのうちは全くフランス語が喋れず見ぶり手ぶりで注文していたのだけれど、 三ヶ月もしたらちゃんとフランス語で注文がとれるようになっていた。アラブの 方には申し訳ないが、これでは追い出されてもしょうがない。 (もしかしたら、 追い出されたからボーッとするよりないのかもしれない。 )
どんどん話題が変わるが、パリには三つの中華街がある。ベルヴィル、 アールメティエと13区のプラス・ド・イタリー周辺。 ベルヴィルはもともとアラブ人街と上で書いた。アールメティエはパリで 一番古い中華街なのだが、となりのユダヤ人街、 そしてホモセクシャル街であるマレ地区の圧力のためか、ずっと規模が小さい。 13区の中華街はいちばん新しく最も大きい。ここには政府の肝煎で「新建築」 として建てられた高層アパート集合体があるのだが、四角ばった建築を 嫌うフランス人達が嫌って入居を見合わせているうちに 中国人たちやベトナム人たちに占拠されてしまったという歴史がある。どこの 中華街にも安くて美味しい中華料理の店や、 中華食材のあるスーパーがあってよく行っていた。そういう点で中華街、 そしてベルヴィルはとてもいい所だ。貧乏旅行で巴里に行く人は是非ここで飯を 食ってほしい。ただ、とっても雑然として、どちらかというと不潔で、治安も 良くない。ベルヴィルは夜中に裏路地を歩くと不良にカツアゲ、というかもっと 正確には強盗にあったりするらしい。
で、映画の話にもどると、この発酵しきった街、ベルヴィルがタイトルの 映画である。その上、フランス、ベルギー、カナダが合作したアニメ? さっぱり 訳がわからない。まさか中華街の話ではないだろうが、、、まさか、「 アメリ 」 のように、アナクロのフランス人の幻想が爆発したアフリカ系移民が出現しない 幻想のモンマルトル、みたいな映画なのか? (いや、いい映画らしいでよ。 観てないけど。ただ、現実のモンマルトルとの解離が激し過ぎるというのは 確かだそうです。 )という訳で観に行ってきた。
結論から言うと、中華街は全然出てこないが、非常にいい。孫と二人暮らしのお 祖母ちゃんが、自転車に憧れる孫のために何故か三輪車を買ってあげる。孫は 大喜び。そして月日は流れ孫は自転車選手となりフランスの自転車レース、 トゥール・ド・フランスに出場。それでレースに優勝する感動のストーリーかと 思いきや何故かリタイア、その上何故かマフィアに誘拐される。それをお 祖母ちゃんが助け出す… というのが話の流れだが、正直、ストーリーはないのと 同じで、そういう意味では非常にフランス的な映画だ。それよりも、醸し 出される妙な雰囲気を楽しむ映画だろう。画調は押しなべて暗く、 ヘンテコなデッサンが素晴らしい。ハリウッドや日本ではスポンサーが文句を 言って商業ラインには絶対のらないだろう。コンピューターによる toon rendering が多用されているが、あまり気にならない。音楽はジャズが基本。 バッハとか、モーツアルトも突然入ったりするが、なかなかうまい選曲。 セリフはほとんどない。もしかすると犬の鳴き声が一番多いかも。だから語学は 全く必要ない。字幕はあったけど。
さて、この映画ではベルヴィルとは架空だが、どこかで見たような摩天楼都市。 だからといって、上に書いたパリのベルヴィルが 出てこないかというとそうでもない。いちばん始めのお祖母ちゃんの家の家の 回りはかなり実際のベルヴィルに近い。 存在しない21区にあることになっているようだが、近くに高架鉄道が 通っていたり、かなりベルヴィル近辺の雰囲気に近いのだ。というわけで、話の 舞台は間にトゥール・ド・フランスの舞台マルセイユを挟んで、 パリの「ベルヴィル」から「アメリカのベルヴィル」へと移動するのだが、 後者のベルヴィルにも高架鉄道が走っていたり、猥雑なアパートの 雰囲気といいこちらも実際のパリのベルヴィルと感じがよく似ている。
何だかいろんな事が言いたくて完全に文章が破綻してしまったが、 実際のベルヴィルを知っている人にも、知らない人にもお薦めの映画です。特に 日本の型にはまったアニメに飽きた人は是非観ましょう。